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神戸地方裁判所尼崎支部 昭和47年(わ)381号 判決

主文

被告人を懲役壱年六月に処する。

未決勾留日数中四拾日を右刑に算入する。

押収してある日本刀一振(昭和四八年押第三号の一)、拳銃一丁(同号の三)のうち銃身の部分および注射器(針付)一本(同号の四)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、暴力団関係の者と交遊をかさねるなどして、とかく素行がおさまらないものであるが、

第一  昭和四五年三月一〇日午後九時三〇分ごろ、豊中市大島町一丁目二番地喫茶店ブルボン前路上において、同店経営者大島哲雄(当時三九年)および同人の妻大島初子(当時三七年)に対し、かねて被告人の口利きで右喫茶店に雇われたことのある被告人の情婦永野泰子のことで因縁をつけ、「俺の女の悪口を言つたやろう」などと申し向け、右手拳で右両名の顔面を順次殴打する等の暴行を加え、よつて、右両名に対し、それぞれ加療約一週間を要する顔面打撲傷等の傷害を負わせ、

第二  同年一〇月八日午後八時三〇分ごろ、同市千成町一丁目二番二三号青葉荘二階三〇号福田新一の居室において、たまたま同室に居合わせた新地政行(当時三〇年)に対し、応接の態度が悪いと因縁をつけ、所携の模造日本刀で同人の右上腕に切りつけ、よつて、同人に対し加療約八日間を要する右上腕部切創の傷害を負わせ、

第三  同四六年一一月一日午前一〇時三〇分ごろ、同市庄内宝町一丁目七の一番地先路上において、清掃用自動車の運転者松原繁留(当時四一年)が清掃車を停車させていたため自動車の通行ができないと立腹し、付近にあつた丸太棒で同人の頭部、顔面などを殴打し、よつて、同人に対し加療約一週間を要する前額部打撲擦過創、右側頸部打撲傷等の傷害を負わせ、

第四  同四七年七月九日ごろ、大阪市東淀川区新高南通三丁目五番地栄楽荘二三号の当時の自室において、行使の目的をもつてほしいままに、そのころ入手した大阪府公安委員会の記名押印のある宇都宮省三に対する普通自動車運転免許証(第六二六六一〇七九六四〇―〇五一二号)のビニール覆の下部を安全カミソリで切り開いたうえ、写真欄に貼付してあつた写真を剥離し、そのあとに自己の写真をセメダインで貼付して、右公安委員会作成名義の普通自動車運転免許証一通(昭和四八年押収第三号の二)を偽造し、

第五  新地政行と共謀のうえ、通商産業大臣の許可を受けないで、同年九月二四日ごろ、尼崎市戸の内町六丁目八番一六号イトー製作所において、同所に設置してあつた旋盤等を使用し、銃砲の部品に使用される銃身一個(前同押号の三)を製作して武器の製造を行ない、

第六  法定の除外事由がないのに、同日午後七時三〇分ごろ、豊中市庄内千成町二丁目七番一一号神崎荘三四号の当時の自室において、フエニルメチルアミノプロパン塩を含有する覚せい剤粉末約0.1グラムを水に溶かしたうえ、注射器(前同押号の四)で自己の左腕部に注射して覚せい剤を使用し、

第七  法定の除外事由がないのに、同月二五日ごろ、前記自室において、刃渡約三八センチメートルの日本刀一振(前同押号の一)を所持し

たものである。

(証拠の標目)〈略〉

(法令の適用)

被告人の、判示第一ないし第三の各所為はいずれも刑法第二〇四条に、判示第四の所為は同法第一五五条第一項に、判示第五の所為は同法第六〇条、武器等製造法第三一条前段第一号、第四条、同法施行令第三条に、判示第六の所為は覚せい剤取締法第四一条第一項第五号、第一九条に、判示第七の所為は銃砲刀剣類所持等取締法第三一条の三第一号、第三条第一項にそれぞれ該当するので、判示第四以外の各罪の所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により最も重い判示第四の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年六月に処し、同法第二一条を適用して未決勾留日数のうち四〇日を右の刑に算入し、押収してある日本刀一振(昭和四八年押第三号の一)は判示第七の罪の、拳銃一丁(同押号の三)のうち銃身の部分は判示第五の罪の各犯罪行為を組成した物であり、注射器(針付)一本(同押号の四)は判示第六の犯罪行為に供した物であつて、いずれも被告人以外の者に属さないから、同法第一九条第一項、第二項本文によりこれを没収し、訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により全部被告人に負担させない。

(銃砲の製造を認めなかつた理由)

判示第五に関する訴因の要旨は、被告人は通商産業大臣の許可を受けないで拳銃一丁を製造したというにあるが、右の所為は犯罪の証明が十分でない。

すなわち、前掲の関係証拠を総合すると、押収してある本件拳銃は、外観上拳銃としての形態をそなえ、多少の補修改良を施すことによつて発射機能を生じ、その構成部品である銃身についてみても、優に自動装填式拳銃用の銃身としての性能を有していることが認められる。

しかしながら、右拳銃は、昭和四七年九月二五日ころ、司法警察員による捜索の結果、銃身をはじめ拳銃の部品等の諸物件が、武器製造被疑事実の証拠として差し押えられたのち、鑑定人塩津秀機の鑑定の過程において同人により組み立てられたものであつて、右差押当時は、右銃身等の部品の大部分は未だ個別に存在する状態にあつたものであり、殊に右の銃身は、被告人が、同月二四日ころ共犯者の新地政行に言いつけて、その銃腔内に詰め込まれていた硬物質を除去したうえその内部に長さ約五九ミリメートル、内経約六ミリメートル、肉厚約三ミリメートルの鉄製パイプを組み込ませて補強加工を施したままのもので、こられの部品等は、右捜索、差押の場所である尼崎市戸の内町六丁目八番一六号イトー製作所のロッカーに入れて保管していたものであることが明らかである。

ところで、武器等製造法第四条、第三一条の規定をみるに、同法が通商産業大臣の許可を受けないで武器である銃砲の製造を行なうことを禁止したのは、銃砲が強度の弾丸発射の機能を有し、高度の危険性を伴うおそれのあることにかんがみ、これが製造行為に刑罰的規制を加えて公共の安全を確保しようとするにあるものというべきである。してみると、同条にいう「拳銃の製造」とは、単に銃砲の部品に使用される器具類を製造したに止まらず、これらの部品を組み立てることによつて銃砲としての形態をそなえ、かつ、弾丸を発射する機能を有し、もしくは通常の手入れまたは修理を加えればその機能を有するに至る程度に完備され、社会通念上銃砲として観念づけられるものであることを要するものと解すべきである。このことは、同法条が銃砲の製造を行なつた者を、その部品のみの製造を行なつた者と区別し、これに比して重く処罰していることからも容易に理解しうるところである。

これを本件についてみるに、前記のように、被告人らは本件拳銃の部品である銃身等に補強加工を施すなどの行為に出たものの、未だこれらの部品を組み立てて拳銃の形態をそなえる状態にも至らせなかつたのであるから、その所為は、武器である銃砲の製造を行なつたことには当らないものと認めるのが相当である。

以上のような次第で、被告人の銃砲の製造を行なつた所為は犯罪の証明が十分でないが、その同一訴因の範囲内に属するものとして判示第五の事実を認定したゆえんである。

よつて、主文のとおり判決する。

(橋本盛三郎 白井万久 将積良子)

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